安心して『失敗』できる社会づくり

~社会貢献と利益追求の間で考えたこと~

一般社団法人 共育ネットワーク 理事長・統括校長
星野 毅 氏(筑紫支部)

一般社団法人 共育ネットワーク 理事長・統括校長 星野毅 (筑紫支部)
一般社団法人 共育ネットワーク 理事長・統括校長 星野毅 (筑紫支部)

フリースクールの開校に至ったのは人との出会いであり、
継続していくのは同友会の学びがありました。

フリースクールとは?

 星野さんは2010(平成22)年、久留米市に中高生を主体としたフリースクールを開校、その後2021(令和3)年には太宰府市にも開校しました。

 フリースクールとは何でしょうか。星野さんに伺いました。「主に義務教育の子どもたちで、『不登校』と呼ばれている子どもたちを受け入れ、それぞれの状態にあった自立・学びの機会を提供する施設・場所を言います」。『不登校』を手元の辞典で引いてみると、『登校の意志を持ちながら、心理的理由から身体的症状を含む登校忌避状態を生じるなど、登校したくてもできない状態を指す』とあります。「私どもがしていることは選択肢の提供であり、不登校の生徒の居場所づくりです。必ずしも学校に戻ることを目的としていません」と星野さんは語ります。

 ただ、義務教育を終えても様々な理由から高校に通うことができない人もいるにもかかわらず、高校生を受け入れるフリースクールはまだ多くはありませんでした。

『高校卒業資格』を取得するには、全日制や定時制そして、通信制があります。通信制では本来、郵便や放送視聴を利用した添削指導(レポート)が主体ですが、登校しての授業(スクーリング)も必要です。しかし、フリースクールの出席では現行の法制上は高校卒業資格が認められていません。

なぜ、フリースクールを?

 星野さんがフリースクールを開校するようになった理由は、それまでの人生の歩みに関係しています。

 星野さんは、1960(昭和35)年に福岡市で生まれ、その後太宰府で育ちました。東京の大学に進むと、学生時代はアメフトとホテルのバイトに明け暮れました。

 卒業後は地元に戻って百貨店に就職し、2000(平成12)年に退社しました。

「不信感が高じて退職したので、やりたいことがあったわけではありません。社会情勢を踏まえて、パソコンスクールやインターネットに係る仕事を立ち上げていました」

その頃、知り合いに通信制の高校を手伝ってみないかと誘われ、視察することにしました。いわゆる腰パン(ズボンを腰のあたりまで下げて履くこと)、茶髪、耳ピー(耳にピアス)の生徒を見るにつれ、「なんで私がこんな生徒の面倒を見なきゃいけないんだと率直に思いました。しかし何か心に引っかかることがあったのも事実です」

それから数年たったある日、郵便局の配達員さんが「あれ?星野君だよね?」と声をかけてきました。中学時代の同級生だとすぐに分かったので名前を言ったところ、すごく喜ばれました。彼は中学時代は不登校でしたが、星野さんは会えば普通に話してくれたのでよく覚えていたというのです。

「私はどちらかというとクラスの中の人気者より、輪からちょっと外れているような人が気になるんですね」

星野さんはホテルや百貨店というサービス業の象徴と言える畑を歩んできました。そのため学校という場であっても、お客様である『生徒』が求めるものを提供する、お困りごとを解決するという考えはあっても良いし、不登校の生徒にこそ、そうあるべきと考えました。

 そんな時、お世話になっている方から、長野県上野市に本校を構える通信制の『さくら国際高等学校』の仕事を手伝ってみないかという声がかかりました。その高校の荒井裕司理事長の話を聞いた途端、「この人に会いたい」という衝動に駆られ、すぐに連絡を取り、東京校に飛んで行きました。「初対面であり、たった一日のことでしたが、その人柄にすっかり魅了されてしまいました。こういう人と一緒にこの仕事をしたいと思いました」。食事の時に「じゃ、星野さん、九州を頼みます」とさらっと言われ、「はい、わかりました」と即答したのでした。

2010(平成22)年に久留米市でフリースクールを開校し、さくら国際高等学校の教育連携施設となりました。

中小企業の一番の商品は

 話は少し遡ります。星野さんは百貨店を退職し、独立して間もなく同友会に入会しました。「ここは経営の勉強をする場だな」と感じ取りました。そこで一年はまじめに通ってみようと決めました。さらに会員の人間ウォッチングを始めたのでした。

 ある人は例会後の懇親会では必ず報告者の隣に陣取っていました。星野さんも真似してみると、例会報告の内容の裏話を聞くことができました。またある人は、いつも明るくジョークを飛ばしているだけでしたが、実はお客様から厚い信頼を得て業績はすごいということが判明しました。

 ある時、(株)樋口金十郎商店の松尾佳雄さんとお話する機会がありました。「星野さんのとこの一番の商品はなんですか」と聞かれ、当時携わっていたいくつかの商材の話をしました。すると松尾さんは「中小企業は、社長が一番の商品なんですよ」と言われました。「この言葉は強く心に刺さりましたね」と星野さんは振り返ります。それから、自分は何を売りにできるかを考えました。

 そして前述のとおり、その後フリースクールを開校して、2014年には(一社)共育ネットワークを立ち上げます。『共育』の言葉は同友会の学びから取り入れました。生徒も先生も地域の人たちも、共に育み、共に育つ場でありたいとの願いが込められています。

訪れた経営危機

 五年ほど経過した時でした。「面接指導施設(分校のような位置付け)」の認可を得なければ、次年度から生徒募集ができないという事態が起こりました。そのためには倍の広さの施設に移転して、全教科の教員を揃えなければければいけません。また、移転には一カ月の猶予しかありませんでした。そんな中、日頃は腰の重たい生徒たちがこぞって引っ越しの手伝いに来てくれてぎりぎり間に合いました。

 また、経済的な問題は家賃や人件費などの大幅な増加でした。すぐに東京に飛び、荒井理事長に自らの思いをぶつけ本気度を示し支援をお願いしました。それでこの危機を何とか乗り越えることができました。「これで腹が座りましたね」と星野さんは振り返ります。

 体制が整ったことで生徒募集がしやすくなり、徐々に経営は軌道に乗っていきました。

社会貢献と利益追求の間で

 同友会ではあすなろ塾や経営指針作成セミナーに何度も参加しました。

「世の中は一度失敗したことで人を責めてしまう。そこばかりフィーチャー(取りざた)されてしまう。何度でもやり直しができる社会を作りたいと考えていました」

『安心して失敗でき、何度でもやり直せる社会をつくる』

 これをミッションとしました。目指すべき経営の方針に『失敗』というキーワードを入れることにはずっと抵抗を感じていました。しかし同友会の仲間に相談すると、わかりやすいし星野さんらしいと言われました。

 次に戦略や計画を立てるにあたり、『不登校の生徒が増えること=自社の利益につながる』という図式に大いに悩みました。しかし、ここでも同友会の学びが生きてきます。同友会の目的に『強じんな経営体質をつくる』とあるのは、『経営指針書を作成して実践し、黒字企業をめざす』ことです。利益を出し、より良いサービス(教育の質の向上・環境の整備)をお客様(生徒)のために還元すれはいいと気づきました。

「私自身は教員免許を持っていません。先生の仕事はそれぞれに任せています。私の仕事は子どもたちが相談しやすいような雰囲気づくりです。人は雑談できる人に相談すると言います。だから私は私自身やスタッフが雑談力を上げることに徹しています」

支えてもらっている

 取材の最後に星野さんが考える自立型企業についてお聞きしました。

「卒業式で『自立』について話をします。自立とは文字通り自分の足で立っていくことですが、『人』の文字が示すように人は一人では生きていけません。誰かに支えてもらっているのです。支えられているということを明確に自覚できることが、すなわち自立だと思います。それを『企業』に置き換えてみたいと思います。みんなに支えられて存在している、そのことを明確に自覚してみんなにお返ししている企業ではないでしょうか」と締めていただきました。取材協力ありがとうございました。

般社団法人 共育ネットワーク

創業2014年6月
住所久留米市東和町1-14 成冨第一ビル4F・5F
電話0942-33-8833
従業員数6名(うちパート・アルバイト1名)
URLhttps://sakura-fs.net
事業概要さくら国際高校久留米キャンパス・太宰府キャンパスおよびさくらフリースクールの運営

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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