主役感

~『私の会社』意識が社員と会社を成長させる~

株式会社カウテレビジョン 代表取締役社長 髙橋 康徳 氏(福友支部)

株式会社カウテレビジョン 代表取締役社長 髙橋 康徳 氏

(株)カウテレビジョンは企業専門のインターネットテレビ局です。
テレビ番組として企業を取材することで、採用や商品プロモーションの現場で活用されています。

独立のきっかけ

 髙橋康徳さんは、1972(昭和47)年、宮崎県延岡市に生まれます。大学卒業後、テレビ局に就職します。報道記者を務め、報道畑を歩みニュース原稿を作成しては配信していました。その数はゆうに三千本を超しました。

2001年9月11日、あのアメリカ同時多発テロ事件が起こりました。系列会社で特派員を出すことになり、髙橋さんも渡米しました。

 現地で一人の女性、ジェシカさんを取材しました。ご主人は倒壊したビルにあったイタリアンレストランのソムリエで、事件前日が二人の結婚記念日でした。一連の取材を終えて戻ろうとした時、「でもね…」と彼女が髙橋さんの腕をつかんで言いました。「私が伝えたいことは私の身の上話なんかじゃないの。あなただって、あなたの大事な人が今日いなくなってしまうかもしれないってことよ」。急に自分事に感じた瞬間でした。「もし あなたの人生が今日終わるとしたら、あなたは胸を張って死ねる?」と聞かれました。「イエス」と答えられない自分がいました。

 帰国してからも、その言葉がずっと脳裏から離れませんでした。入社以来、数多の原稿を書いてきましたが、その内容は事故や事件などのネガティブコンテンツがほとんどです。頑張っている人の紹介や人々を元気にするようなポジティブなものは100本に1本あるかどうかという状況でした。「その1を100に変えよう!」この答えに達するのに2年を要しました。

創業

 2004年5月、髙橋さんは独立してポジティブコンテンツ100%の会社、(株)カウテレビジョンを創業しました。

 カウ(cow:牝牛)はその土地の草を食(は)んで乳を出します。九州を愛し九州に愛される企業、そして背中に九州を背負い角からは電波を発信しています。
テレビ局の傘下には入らず、また代理店も通さずに自らお客様を探し、企画、製作、メンテナンスに至るまで自社で一貫して行う、いわば自立型企業です。

 企画もの『社長室101(ワン・オール・ワン)』は地元企業のトップリーダーにインタビューして企業紹介をし、好評を得ています。

突然、社員が・・・

 しかし、髙橋さんは「まだまだ、私は『職人』でした」と当時のことを反省しています。営業トーク、カット編集、テロップ……、どれ一つとっても「こうあるべきだ」という『べき論』で社員を叱責していました。「社長というのは、命令する人と思っていました」

 四人いた社員のうち二人が同時期に退職を申し出てきました。「どんなにいい仕事をしても、社長には人としてついていけません」。これには大きな衝撃を受けました。残る一人の若手社員が「社長、僕は辞めません。一緒に頑張りましょう」。この言葉にどんなに助けられたことでしょう。「こんな社員がいてくれるのだから、この社員を幸せにしなければならない」。そう決断しました。それからは『べき論』は止めることにしました。なお、その社員は現在、髙橋さんの右腕として会社をリードしてくれています。

同友会に入会

 髙橋さんは2012年に知人の勧めで同友会に入会しました。「それまで社長のインタビューで自分なりにケーススタディを繰り返しており、パズルのピースはあるのですが、体系立てることができていませんでした」。
 あすなろ塾と経営指針作成セミナーにも参加しました。会社に帰るや否や、経営指針書発表会を開催し、社員と『価値観の共有』を図りました。
 策定した経営理念は『いい人生、いい社会』。社員一人ひとりがこの会社に入ってよかったと実感してもらうとともに、いい社会づくりに貢献するという願いを込めています。

ワインとブドウ

 2014年に大きな決断をしました。創業10年を迎えていましたが、売上がどうしても頭打ちとなっていました。社員四名体制でしたが、この年に一気に新卒を四名採用しました。「それまでは、売上が増えたら社員を増やそう。利益が出たら設備投資しようと考えていましたが、逆だったんですね。ワインが売れたらブドウを買おうじゃなく、まず(よい)ブドウを買って(よい)ワインをつくろうと考えました」。さらに東京進出を図ります。また、資金を回すことの重要性を見出し、銀行からの借入れもしました。その結果、好循環が始まり、初めて売上1億円の壁を破ることができました。

ユニークな戦略

 仕事は『採用支援』としての採用ドキュメンタリー動画がメインの事業となっていきました。企業側は採用難を憂い、かたや学生は就職難を嘆いています。両者の抱える課題を解決するべく、中小企業と優秀な若者の出会いの場を提供する施策を考えていきました。

 従来の大手企業の採用支援動画は、つくりっぱなしで莫大な費用も掛かります。そこを半分程度に抑え、あとは著作権として月々定額のレンタル料を設定しました。そうすることでアフターフォローも十分に行えます。「自社としてもストック収益として経営の安定化が図れるようになりました」。

 さらに有名企業の最終選考で採用に至らなかった学生を『就活ファイナリスト支援』として他社の最終選考に近いランクに紹介をしています。「がんばって就活したけど、あと一歩で不採用だった…」そんな学生の頑張りを評価し、福岡の成長企業や有力企業に直接紹介し、特別選考をする全国初の取り組みです。この取り組みは『地域を挙げた新しい就職・採用の形』として新聞やテレビなどのメディアにも取り上げられました。

 また、取引業者には『あいのりインターン』と称して、学生が一度に四社でインターンシップを体験できる仕組みをつくりました。「動画をつくることが目的ではなく、採用がうまくいくことが目的です」と髙橋さんは話します。

迎えたコロナ禍

 コロナ禍では、一時期売上の見通しが6割減となりました。髙橋さんは「ここで原点に返ろう」と社員に呼び掛けました。それは「お客様の声を聴くこと」でした。100社以上のお客様にZoomを通じて面談をしていきました。「今お困りのことはございませんか?」「私どもの得意分野を活かして御社のためになることはございませんか?」そうやって企画チャンスを見つけてはPDCAを繰り返していきました。その結果、2020年度は116%の実績を上げることができました。さらに今年度はそれを上回る実績が見込めそうです。

主役感

 こうした社内の活性化、社員の自主性を発揮させるものとして髙橋さんは社員に『主役感(自分の会社であるということ)』を持ってもらうことが重要だと話します。「そうすれば困難でも自分事として乗り越えられると思います」。具体的な取り組みを二つほど紹介します。

幹部を社内選挙で選ぶ

 社長が役職に任命するよりも、自分で勝ち取った方がやる気が出てくるというものです。立候補権は全社員にあり、ポスターを作り立会演説会をして、自分がリーダーになったらどのような活動をするかを主張します。ポストは7つのユニットのリーダーです。リーダーになれば毎月P/L(損益計算書)を提出するなど、経営感覚が磨かれていきます。ここで重視しているのは、落選した人を十分にフォローすることです。

ボーナス分配委員会の発足

 半期の純利益の40%をボーナス原資として、その分配に社長が一切関与せず社員たちで作る「分配委員会」に委ねる制度です。社員たちの手で貢献分配表を作成し、細かい項目ごとにポイント制にして数値化していきます。これをボーナス支給の一つの指標にしています。

社員の成長が喜び

 取材の最後に髙橋さんの考える自立型企業についてお伺いしました。

 「社員が主役感を持ち、仕事を通じていい人生を送り、
  いい社会づくりに貢献していく会社だと思います。
  私の仕事は社員が主役感を持つには何をしたらいいかを考えることです。
  社員の成長を見るのがすごく楽しみなんです」
と笑顔の髙橋さんでした。

取材協力ありがとうございます。

株式会社カウテレビジョン

創業2004年5月
住所福岡市中央区天神3-4-5 ピエトロビル8F
電話092-401-6055
従業員数26名(うちパート・アルバイト6名)
URLhttp://www.cowtv.jp
事業概要企業の魅力を分かり易く学生に伝える「採用ドキュメンタリー」動画を製作しています。

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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