下りのエスカレーターを駆け上がるが如く
~プレーヤーから経営者へ~
株式会社特殊高所技術 専務取締役
山本 正和 氏(福友愛支部)
今回の取材は、社名の通り高所で特殊な技術を提供する会社です。
発展する会社の中で、同友会の学びをどう活かしていったのでしょうか。
建造物の高所を調査する会社
まず専務取締役の山本正和さんに(株)特殊高所技術の会社概要をお聞きしました。「一言で言うとインフラの点検・調査・補修の会社です。長さ2メートル以上の橋は法令で5年ごとの点検が義務付けられています。橋梁点検車などもありますが、近づくことが困難な高所にロープ等を使って接近し、知識と技術を修得した技術者が作業していきます」
独立志向が強かった
山本さんは愛媛県松山市に生まれます。高校を出て型枠大工職人になり8年ほど働きました。もともと独立志向が強く将来を憂慮して仕事探しをしていました。ネットで人がロープにぶら下がっている写真を見つけ、大いなる可能性を直感したと言います。当時はトンネル岩盤崩落事故が社会問題となっており、ロッククライマーが急な崖の調査をしている会社のHPだったのです。
すぐに京都へ行き、その地質調査会社に所属し技術を習得することにしました。その会社では、仕事を請負うと一人親方に発注していました。その会社は仕事の引き合いが多かったものの、山本さんは経営者の姿勢には共感できなかったと言います。しかし、仕事には大いなる可能性を感じていました。
そこで知り合った和田聖司さんと資本を出し合い、2007(平成19)年に京都にて会社を興しました。和田さんの方が年上であり経営の経験もあることから社長となり、山本さんは専務に就きました。
全国展開を図る
仮設足場や重機が不要で適用範囲も広いなどのメリットと、丁寧な仕事ぶりが市場に支持され会社は急速に発展していきました。東京に続き、福岡へ進出することになりました。双子が生まれたばかりの山本さんは、奥さんの実家である熊本が近いこともあり、福岡に赴任することにしました。
パイオニアとして業界をつくりたいと考えている同社は、あえて広島営業所と仙台営業所は連結せず別会社にしました。「もう一つの理由は、営業所長よりも株を保有して社長になった方が、人としての成長が早いこともあります」と山本さんは語ります。
ゼロスタートの人材育成
会社の成長につれて採用や育成といった『人』の問題があります。仕事柄、即戦力というのはほとんど望めず、ゼロスタートとなります。
特に安全はすべてに優先します。同社が中心となって創設した(一社)特殊高所技術協会が実施している資格制度に基づいて講習会を開きます。ロープで高所に上ることはあくまで手段で、目的は点検・調査・補修することにあります。構造物の名称から始まり、調査用の写真の撮影方法や補修技術を学びます。さらに現場においてOJTを行います。「半年たってやっと一人工(いちにんく)として計算できるようになります」
ここで同社が考える『一流の定義』について説明していただきました。
『誰にでもできることを、誰もがやらないレベルでやる』
例えば靴を揃える、ごみを拾う、汚れているものをきれいにする。そんな誰でもできることを徹底してやることが一流と考えています。その考えが、『安全』につながっていくという同社のマインドになっています。
同友会との関わり
山本さんは毎日のように現場に出て、会社を引っ張っていました。
社長は銀行筋が勧める勉強会に入る一方で、山本さんは同友会に入会します。「経営者って、何をしなければいけないのか」と模索している時期でした。色々とネットで検索したところ、同友会がヒットしました。即、入会を決めました。2013(平成25)年のことです。
所属する福友支部(※)の例会で、(株)カウテレビジョンの髙橋康徳さんが『プレーヤーからの脱却』というテーマで報告していました。現場が大好きな山本さんは大きな衝撃を受け、悩み、葛藤の日々だったそうです。そして経営者として現場に出ることをやめ、経営に専念することを決断しました。
あすなろ塾と経営指針作成セミナーにも参加しましたが、すぐには経営指針をつくれなかったと語ります。4人の取締役と討議の上、次のような経営理念を策定しました。
『人と人との繋がりを大切にし、ともに幸せになる未来を作る』
仕事を通じて、仲間達が生きる喜びや誇りを実感し、技術・知恵・感性・情熱を駆使し人間らしさを発揮できる会社をめざしています。結果として、仕事への誇りが、社員一人ひとりの喜びとなり、ひいては企業の発展、社会への貢献にもつながる会社でありたいとの思いが込められています。
同友会理念と経営
福友支部(※)では副ブロック長から副支部長まで役職を務めました。その中で人と接しやすい環境づくりに気をつけていたそうです。
同友会で推奨する『人を生かす経営』は、経営者の責任、経営指針書の作成と実践、社員を重要なパートナーとみなすということが柱となります。山本さんは「経営者自身も生かされるようにがんばらないといけない」とも考えています。
経営に専念することは、人材の採用と育成、そして『安全』を最優先する社員教育、財務など様々なことが挙げられます。現在は技術スタッフが現場に集中できるように、アシスタントスタッフの強化など社内の仕組みづくりに取り組んでいます。
今後の展開
山本さんは自社において『価格決定権』を保有していたいと考えています。そのためには業界トップを走り続けなければなりません。「あたかも、下りのエスカレーターを駆け上がるような気持ちで仕事をしています。何もしないと下がっていきますね。以前はこれでいいのかと悩んだ時期もありましたが、今はこれがウチのやり方と確信しています。お客様の期待にお応えするのがウチの仕事の流儀です」
取材の最後に山本さんが考える自立型企業についてお伺いしました。
「時代や環境が変わっても、必要とされ続ける会社だと思います。いなくては困る会社だと思います」と締めていただきました。
取材協力ありがとうございます。
※ 福友支部は2022年度より福友愛支部と福友和支部に分かれて活動しています。
株式会社特殊高所技術
創業 | 2007年6月 |
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住所 | 福岡市博多区金の隈1-33-26 |
電話 | 092-513-9557 |
従業員数 | 74名 |
URL | https://www.tokusyu-kousyo.co.jp |
事業概要 | 特殊高所技術を用いた高所での調査及び補修工事、橋梁・水力発電所など大規模構造物の調査・点検・補修、風力発電機の調査・点検・補修、非破壊検査、地表及び地下地盤を構成する地質の性状調査、岩壁及び不安定岩塊の除去、他 |
取 材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写 真 富谷正弘(玄海支部)