自立すると会社・社会がよくなる

~『日本でいちばん大切にしたい会社大賞』受賞~

ATUホールディングス株式会社 代表取締役 岩﨑 龍太郎 氏(福博支部)

ATUホールディングス株式会社 代表取締役
岩﨑 龍太郎 氏(福博支部

「弊社では『障がい者』とか『健常者』とかいう表現は一切ありません」と話す岩﨑さん。
2019年1月、中小企業では3社目の『障害者活躍企業』(※)に認証された(株)ATUホールディングスを取材しました。

区別が最大の問題

 岩㟢龍太郎さんは1976(昭和51)年、栃木県足利市に生まれます。鹿児島県の大学で土木工学を学び建設業に就職しました。しかし若いころからの金属アレルギーが再発し退職を余儀なくされます。次なる勤め先は、鹿児島県内の警備会社でした。営業だけでなく人事総務も任せられ、会社は順調に発展していきました。

 ある日、警備員の一人から「私は精神障がい者手帳をもっています」と報告を受けました。当時(2002(平成14)年)は、警備業法の定めで、障がい者は警備員として従事できませんでした。

「彼の働きぶりは、決して『健常者』に劣るものではないのですが、監督官庁は雇用を認めず解雇せざるを得ませんでした。私は関係機関と粘り強く交渉を重ね、3カ月たってやっと復職を果たせました。もっと相互理解に手間をかける必要があります。『障がい者』と『健常者』を区別する意識や偏見こそが、最大の問題であると意識するようになりました」。

本当の幸福感とは

 やがて同社の副社長となり経営者意識も強くなっていきます。
 劣悪な労働環境改善のためには、もっと管理手法を学び高業績の警備業にしなければならないと考えていました。社長にその旨を説明し自腹で東京のビジネススクールに通うことにしました。

 その学びを活かし、会社では警備員の給料を徐々に上げていきました。しかしいわゆる『やらされ感』が強く、依然として突然の欠勤や早退などが多く、社員のモチベーションは上がっていません。『カネ・モノ・地位』といった『地位財』では、一瞬の快楽は満たしたとしても、本当の幸福感は長続きしません。安心・安全・感動・いい仲間・いい社風といった『非地位財』を満たすことが重要と考えるようになりました。

第10回「日本でいちばん大切にしたい会社 」大賞
第10回「日本でいちばん大切にしたい会社 」大賞

坂本教授との出会い

 そんな悩みを抱えている折、鹿児島県中小企業家同友会の講演で、法政大学の坂本光司教授(※)と出会います。そしてこう質問したのでした。「なぜ障がい者雇用が進まないのでしょう」。師はこう答えます。「働けない障がい者の寿命は、私たちよりはるかに短いんです。岩㟢さん、頼むよ…」。岩﨑さんは自分の本気度・覚悟がまだまだ足りないと気づかされました。警備員をやりたいという障がい者や、働きたいが職にありつけない人などのための会社を作るため、独立を決意するのでした。

ATUホールディングスの経営

 2019(令和元)年、岩㟢さんは鹿児島県から福岡県に移り、旧知の髙谷幸一さん((株)ユニティ代表取締役、福岡同友会代表理事)から休眠会社のATUホールディングス株式会社を紹介してもらい、支援者と共に買収して障がい者などの雇用を始めました。すぐに代表取締役に就任します。

 理念を具現化する行動を『使命』と位置づけこう策定しました。

『わたしたちは障がいがあっても物心両面の環境を整え、良道な仕事ができることを、
 社会に証明し伝えます』

 ここでいう『良道』は岩㟢さんが造った言葉です。「良道な仕事を行えば必ず利益が出ます。もし利益が出ないとすれば、良道から外れ独りよがりであるか、あまり役立っていないか」と考えています。

社員の自立

 ATUホールディングスでは現在、57名いる社員のうち22名が障がい者です。女性割合25%、女性管理者8.4%、70歳定年(再雇用80歳)、有給休暇取得率90%、離職率1.8%とどの数値を見ても岩㟢さんの熱い思いが感じられます。

 特筆すべきは、賃金が地域の警備業者と比較して10%高いという点です。補助金は一切受け取っていません。長時間労働を強制しているわけでもなく、仕事のシフトは余裕をもって管理しています。特別なスキルを持った人材を求めているのではなく、「自転車に乗れれば採用基準クリアです」と岩㟢さんは言います。

 この高業績の第一の秘訣は、時間をかけた丁寧な教育にあります。それは2年に至ることもあると言います。とかく雇用すると即戦力を求めがちですが、安定した雇用関係に裏付けされたトレーニング・プログラムを組み、有資格者のサブトレーナーをつけています。挨拶や身だしなみから始まり、感情のコントロール、金銭感覚、体調管理など段階において多岐にわたります。教育の目的とするところは『社員の自立』にあります。

 そして第二の秘訣は、仕事に人を合わせるのではなく、人に仕事を合わせていく作業です。お客様との徹底した打ち合わせにより、警備員の可能性を見出し、倉庫の高度な物流受付やクルーズ船の仕事、月三百件超の道路使用申請代行など、付加価値の高い非価格競争での仕事の受注になります。それにより高い賃金とやりがいが保障され、社員が幸福感を感じます。自分のためだけではなく、人と会社の関係がよくなっていきます。

令和2年度障がい者雇用優良事業所表彰状
令和2年度障がい者雇用優良事業所として福岡県知事より表彰

同友会との関わり

 同友会には鹿児島時代から所属しています。特に同友会の基本理念の一つである「自主・民主・連帯」に強く共感を覚えたと言います。

 『自主とは、全ての人は、なんらかの可能性を持って生まれてきている。その可能性を見つけ出し、どれだけ伸ばしきるか。

 民主とは、人間の命の重さには軽重はない。全ての人の命の重さは同じである。
 連帯とは人間的信頼関係に立つ、当てにし当てにされる関係が深まるほど集団は(家族、企業、サークル、など全て)は安定し、集団としての力も強まる。』
 岩㟢さんはこの3つともが共に繋がり相互に作用していい会社ができると考えています。

すべては自分の言動から

岩㟢さんに仕事において大切にしていることついて聞いてみました。
 「修身斉家治国平天下(しゅうしんせいかちこくへいてんか)と言いますが・・・」

 ここでまず意味を確認します。自分の身を納め、家庭をととのえ、国家を治め、天下を平らにすること。『礼記(らいき)―大学』からの一節です。「・・・その中で一番大事なのは修身だと思います。すべては自分の言動に気を付けることから始まり、果ては社会全体の安定につながると思います」

 取材の最後に岩㟢さんの考える自立型企業についてお伺いしました。この定番の質問に取材班は「ご自身の言葉で」と付け加えるのですが、岩㟢さんは中同協の提唱する『21世紀型中小企業』が過不足なく定義されており、自分もこれを目指しているというとのことで、そのまま掲載させていただきます。

 第一に、自社の存在意義を改めて問い直すとともに、社会的使命感に燃えて事業活動を行い、国民と地域社会からの信頼や期待に高い水準で応えられる企業。

 第二に、社員の創意や自主性が十分に発揮できる社風と理念が確立され、労使が共に育ちあい、高まりあいの意欲に燃え、活力に満ちた豊かな人間集団としての企業。
 なお、岩㟢さんは2020(令和2)年3月「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」を受賞しています。

 取材協力ありがとうございます。

ATUホールディングス株式会社

創業 2012年9月
住所 福岡市博多区博多駅前4-33-1 KMビル3F
電話092-710-5681
従業員数57名(うち障がい者22名)
URLhttp://atu.co.jp/
事業概要 警備業初の重度障害者多数雇用事業所で、官民の施設警備、交通整備をしています。

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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