労使見解に学び、社内環境を整える
~挑戦する人を評価する~
有限会社コンサルティングオフィス
代表取締役 重松 和孝 氏(飯塚支部)
比較的早めの事業継承をした(有)コンサルティングオフィス。
かつて個人事業者が多かった保険業で、組織経営を目指して同友会の学びを実践していくのでした。
後継者として入社
今回の取材先(有)コンサルティングオフィスは、重松和孝さんの父親・守さんが1979(昭和54)年に飯塚の地で創業した保険代理店です。
重松さんは、高校まで飯塚で過ごし、大学は工学部に進みました。
本人は家業を継ぐ気はなかったと言いますが、学生時代からファイナンシャル・プランナーの資格を取得するなど、父親の背中を見て育った影響は大いにあるようです。保険会社に就職して1年半ほど修行して、後継者として実家に戻りました。
取引先の勧めで23歳 という若さで同友会に入会します。「年上の経営者ばかりで、初めは何を話しているのかわかりませんでした」と重松さんは振り返ります。
紹介者の手前、一年間はまじめに参加しようと心に決め、参加しているうちに役職が回ってきて、結果的に同友会で深く学ぶこととなります。
業界の動向
1996(平成8)年に金融ビッグバンの改革が進められました。銀行・証券・保険の3分野において、市場原理が働く自由な市場・透明で信頼できる市場・時代を先取りする市場の3原則に基づいています。1999(平成11)年には57万社あった損害保険代理店も2020(令和2)年には3分の1に統廃合・淘汰されていきました。保険業法も改正を重ね、監督する金融庁は意向把握義務・情報提供主義・体制整備義務を指導してきます。
「PDCAを徹底して代理店に教育・指導・管理を求めてきました。ルールを守るだけでなく、組織化して『顧客本位』の高品質な経営を求められています」と重松さんは話します。
最近は、価格破壊につながるネット保険や異業種からの参入などもあり、厳しい経営環境となってきています。
比較的早い事業継承
同友会で学び、自分なりに『経営指針書』を作成しました。経営理念は父親と相談して次の通り策定しました。
『常に地域No.1のプロ代理店を目指し、お客様の生涯の安心パートナーとして、最良の商品を提供する事を使命とします。』
「父はスーパー営業マンでした」と重松さんは話します。経営環境は前述のように金融庁の指導で組織化が求められ、IT化の波も押し寄せてきています。そこで早めの事業継承を考慮して代表者の交代を勝手に経営指針書の中に盛り込んでいたそうです。その時点でそれを見ていた父親は何も言及しなかったそうです。
30歳で結婚した重松さんの結婚式でのこと、父親が挨拶で突然「事業を継承します」と発表したのでした。
来賓のお客様は言うまでもなく、重松さんが一番驚いたと言います。
翌年(2012年)、31歳で二代目に就任しました。なお、父親は会長職に就き現在でも現場に出ています。
社内の整備
外的環境の変化で、社員は増えていきました。経営理念でも謳うように『お客様に寄り添うこと』で実績も上がっていきました。しかし、重松さんは「目がお客様ばかりにいっており、社内に向いていないのではないか」と考えるようになりました。
同友会の『労使見解』を自社の経営に落とし込んでいくことにしました。
経営理念には次の項目が付け加えられました。
『全社員が物心ともに豊かな人生を築くため、地域同業界No.1の労働条件を目指し、社員の個人的成長と企業の組織的発展に努める』
具体的には、就業規則や労務管理の整備から始めました。有給休暇も取りやすい環境をつくり出しています。「私に子どもができたので、まさに自分事としてこうなれば都合がいいと思うところを改善していきました」。半年遅れで、他の社員にも子どもが生まれ、効率よく運用されていきました。
さらには、10年ビジョンを策定しました。社員との共有を図るため、社内でSWOT分析を行いました。そこで1時間ほど重松さんは席を外したそうです。戻ってみると、社員が想像以上に考えていることに感動を覚えました。そして経営者と社員の課題に対する考え方の違いが明確になったのが良かったと言います。
「嬉しかったのは、S(強み)のセクションに『わが社はホワイト企業』とあったことです」と目を細めます。
データ分析によるこれからの戦略
SWOT分析で確認した強みは他にもあります。 『40年にわたる地域密着の経営』。これがお客様との信頼を構築しています。
売上の7割が個人のお客様です。保険業と言えば、統計を基盤とする業務です。積み重ねられたデータは分析により今後の動向を読むことができ、地域における自社の存在意義が見えてきます。
自動車事故はここ数年、技術革新の成果で事故率が減少しました。しかし、被害金額が増加しています。今後、人口減少や自動運転の普及で事業の拡大は見込めないでしょう。そこで新しく攻める分野として、法人向けのリスク管理が挙げられます。経営者の認知症リスクやサイバーリスク、知的財産権などが挙げられます。「中小企業の経営者が、認知症になり経営がおぼつかなくなったら、大変なことですよ。多くの会社がリスク対策に乗り出していないのが現状です。私たちは『気づかせ屋』として提案営業しなければならないと考えています」
また、毎年のように水害に見舞われる九州エリアにおいて、BCP(事業継続計画)の観点からも提案をしています。具体的に「会社が被災した。その時、会社と従業員を守れますか」と呼び掛けています。地域のハザードマップを加味した保険の提案をしています。
災害に関しては、最近、悪徳業者が「無料です」「保険で対応できます」と甘い言葉で近づいてくる例があとを絶ちません。「身なりもきちんとしていて、HPもしっかりしているケースが多いです。災害現場をローラーしてきます。安易にハンコを押さないように。地元で看板を上げている業者に相談してください。クーリングオフを過ぎると取り返しがつかなくなります」と警鐘を鳴らしています。「そういう意味では同友会のネットワーク(税理士・弁護士・司法書士・不動産業・自動車修理業など)は信頼ができて迅速な対応で助かっています」と重松さんは言います。
昨年、取り扱っている保険会社から新たな『がん保険』が発売されました。メーカーサイドからは、販売マニュアルが送られてきますが、同社では採用しませんでした。まず全員が自宅でできる最新のがんスクリーニング検査を受けました(検尿で線虫という虫を使う検査)。「じつは私自身、がん化する直前のポリープが見つかりました。説得力が増しますよね。そしてこの保険のどこがいいと思うかを社内でディスカッションし、がんという病気についても徹底的に研究しました。みんなで話し合った結果、お客様に商品の説明ではなく、健康診断や検査の大切さを訴えていくようにしました」。同社の実績は大幅に伸びたそうです。
全社一丸体制の社風づくり
取材の最後に、重松さんが考える自立型企業についてお伺いしました。「保険代理店はメーカーとして独自の保険をつくることはできません。お客様が困ったときに担当の顔が浮かぶように社員が一丸となって力を合わせて、地域に必要とされるようめざしていきます。まず当たり前のことを当たり前にやっていくことでしょうか。私の場合、社員が当社で長く働きたいと思い、自己成長できるように、働く環境を整備していきます」
従来、社内会議は会長と社長ばかりが発言していました。そこで重松さんは社内の組織を変えて、全員に部門の責任者になってもらいました。教育管理・お客様の声対応管理・事務指標管理・個人情報管理・損保営業推進管理・生保営業推進管理などがあります。会議は全員が発言するようになり活性化されています。今後は新卒採用に向けて社内の環境整備や教育マニュアル作成なども視野に入れています。
「PDCAに基づいて仕事を進めていくうえでD(行動)を重んじていきたいと思います。結果よりも、挑戦した人を評価したいと考えています」。その場合、どこまで権限移譲できるか、同友会でこんな話を聞いたと言います。
「『社員のする失敗で会社が潰れるようなことはありません。自分が思っているより社員は有能です。』社長はコンプライアンスに徹することです。社内環境整備や社風づくりが私の仕事です」と締めていただきました。
取材協力ありがとうございます。
有限会社コンサルティングオフィス
創業 | 1979年2月1日 |
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住所 | 飯塚市中326-3 |
電話 | 0948-22-7081 |
従業員数 | 8名 |
URL | https://ag-consulting-office.com/ |
事業概要 | 損害保険、生命保険、確定拠出型年金、保険相談診断 |
取 材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写 真 富谷正弘(玄海支部)