経営理念は、あん・しん・かん
~社員が働きやすい環境づくり~
有限会社Miyamaコーポレーション
代表取締役社長 降籏 美香 氏(福友愛支部)
会社の立て直しに取り組む降籏さんは、社員の声を聴くことに徹したのでした。
一年だけ猶予を
今回の取材先は(有)Miyamaコーポレーションの降籏美香さんです。同社は現在100台の車両を有し、医療品輸送、一般貨物事業に加えて倉庫業や物流システム企画など物流のトータルコーディネーターを目指しています。
従業員が95名で女性ドライバーが24名と、運送業では突出して高い比率になっています。
平成元年、美香さんの父親の片山善徳さんが「これからは物流の時代だ!」とそれまでのライターの仕事から一変し、軽トラック1台で創業しました。片山さんは強力な行動力を発揮し、平成6年に(株)FBSコーポレーション(現在・(株)エフティーライン)を設立させます。弟の和徳さんが後継者として入社し、大型トラック、トレーラーに特化していきました。一方、軽貨物運送事業として平成16年3月㈲みやまコーポレーションを設立させました。平成18年に一般貨物輸送事業(1トン、2トントラック)を始めたのを機に、ご主人の賢一さんが会社に入社し、常務取締役に就き経営をしていきます。降籏さんはもともと継がないと考えていていましたが、平成23年の東日本大震災で運送業の重要性を認識し、経理兼総務として入社してサポートします。
しかし平成27年から3年連続で赤字となり、弟さんの会社に吸収合併する話が進んでいきました。「長距離主体の会社では、うちの社員の居場所がなくなる」と考えた降籏さんは「一年だけ猶予をください」と願い出て会社の再起を目指しました。
立て直しの取り組み
何としても黒字転換を図らなければなりません。そのためには社員のモチベーションを上げることが大事と考えました。降籏さんが取り組んだことは2つ、徹底的に現場の声を聴くことと経営を学ぶことでした。
運送業についての知識は皆無と言っていい降籏さんは、まず社員の声を聴いて回りました。
「耳の痛いこともありましたが…」と降籏さんは続けます。「多かったのは、休日のあり方、家族との時間を増やしたいという意見と収入を上げたいということでした」。そこで有給休暇の有効活用、特に前もってわかっているイベント(学校行事)への参加促進、子どもの急な発熱への対応、男性社員の出産への立ち合いなどを積極的に対応するよう推奨していきました。もともと年齢層が広いこともあり、あたかも子ども世代・孫世代との付き合いのようになりみんなでカバーする社風が生まれていきました。
こうした取り組みの結果、同業他社からの転職、社員からの紹介、親子での在籍、社員の定着率の向上などの成果が表れてきました。
収入を上げたいという要望には、軽トラックから1トン、2トン車、3トン、4トン車、さらに10トン車とスキルアップして乗ってもらうようにしました。女性ドライバーは大型車では荷物の積荷や降ろし作業が大変なので、切り離しだけで済むトレーラーも導入していきました。スキルアップを希望する社員には会社が費用負担しています。人事評価制度も導入し、習得したスキルに応じて評価と等級付けし報酬に反映させています。
同友会で経営を学ぶ
降籏さんは経営を学ぶため、大阪で開催された業界の会合に参加しました。そこで川端運輸㈱の川端章代さんと出会います。川端さんは奈良同友会代表理事でもあり「同友会という経営を学ぶ会が福岡にもあるはずだから訪ねてみなさい」とアドバイスをもらいました。福岡に戻るやすぐに問い合わせてみると『同友会を知る会』を開催するというのでさっそく参加しました。また、トラック協会の女性部勉強会で納富輝子さん((有)一柳)と知り合い、女性経営者の話に感銘を受けました。
福友支部(当時)に入会し、同友会のありとあらゆる勉強会に参加しました。特に福友支部独自の勉強会であるブランディング塾では自社のブランディングのやり方について、決算書勉強会では決算書の数字の見方を、末政塾では自社分析を行い管理会計について徹底的に学ぶのでした。
「同友会がなかったら今の私はありません。本当に感謝です」。現在、副支部長として仲間づくりの先頭に立っています。
あん・しん・かん
降籏さんが同友会で策定した経営理念は次の通りです。
「私たちは全ての人々に あん・しん・かん を運び続けます」
(あん) 安全が安心になり
(しん) 心をこめて信頼をつくり
(かん) 感謝・感動を運びます
私たちは、(物)ではなく(想い・言・事)を運んでいるという誇りをもって仕事に取り組み、人々に安心感を提供し続けます。
社長に就任
社員のやる気も向上し業績も回復軌道に乗り、会社を存続することになりました。平成30年11月、降籏さんは覚悟を決め社長に就任しました。就任と同時に2つのことを行いました。
一つは社名を、有限会社みやまコーポレーションからMiyamaコーポレーションへとアルファベット表記に変えました。これは福岡がアジアの玄関口であるという地の利を生かし物流業として海外進出を目指そうという思いが込められています。
もう一つはライフサポート事業の立ち上げです。
ライフサポート事業部とは
いろいろな場面で、高齢者のお客様にお会いします。一人暮らしの高齢者の方は話し相手もなく、時折ジュースなどを用意してドライバーを待っている方もいるそうです。そんな中で「運送業なら『引っ越し』を請け負ってもらえないか」という相談を受けてきました。引っ越しのノウハウを持っていませんでしたが、降籏さんは取り組む決断をしました。
高齢者と親族が離れて暮らしていたり、高齢者の1人暮らしが増えていく中で、安全なはずの自宅の居間で高齢者の方が転倒し怪我をされ入院や施設に行くことになるケースが増えてきています。そこで、引っ越しはもちろんのこと、高齢者のための身の回りの片付けなどの業務を行う『ライフサポート事業部』を立ち上げたのでした。
「今後この分野のニーズは増えることが見込まれます。また物流業は時間の標準化が意外と難しいのです。朝と夕方が忙しく、意外に昼過ぎは仕事が少ないのです。高齢者も午前に病院に行ってその時間帯は家にいることが多い。そこでシフトを組んでこの仕事に取り組むことでわが社にもメリットがあります。片付けのプロ、ヘルパーの資格者も動員して取り組みます。経営理念の『あん・しん・かん』を具現化する事業です。」
社員が働きやすい環境づくり
『あん・しん・かん』のために、社員に寄り添う姿勢は社長になってからも変わりません。会長が社長時代のNo.2、No.3が退社してしまいました。降籏さんはドライバー経験者を管理職に抜擢していきました。「管理職には、コミュニケーションが第一。常にドライバーの話を聴くことを心がけて下さいと伝えています。特に『困っていること』を言えるような雰囲気づくりをすること。また、相談されたことに対しての返事は迅速に対応してもらうようにしています。」
コロナ禍で苦戦を強いられましたが、ドローン事業と中国国内向け航空宅配サービスを立ち上げました。新しい風が吹いています。
変革し続ける会社
取材の最後に降籏さんが考える自立型企業についてお伺いしました。「会社を永続するためには、社員が安心して働ける場でなければなりません。そのためにはお客様や地域から感謝され、必要とされる会社でなければなりません。社員、お客様、地域のみなさまの声を聴き、情報を集めさらにアップデートして、自分たちで何ができるかを考えて変革していく会社が自立型企業だと思います。うちの場合はすべて『あん・しん・かん』に基づいているかどうかです。社員が働きやすい環境をつくるのが私の仕事です」と笑顔で締めていただきました。
取材協力ありがとうございます。
有限会社Miyamaコーポレーション
創業 | 2004年3月 |
---|---|
住所 | 糟屋郡宇美町貴船4-1224-1 |
電話 | 092-957-0058 |
従業員数 | 95名(うちパート10名) |
URL | https://miyama-smile.jp/ |
事業概要 | 一般貨物運送業、食品の宅配業務、医薬品の宅配業務、倉庫業。 |
取 材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写 真 富谷正弘(玄海支部)