次世代に種をまく

~『ふるさとを元気にしたい』という思いが込められた新事業~

有限会社 明治屋食料品店 四代目社長
桒野 修一 氏(のおがた支部)

有限会社 明治屋食料品店 四代目社長
桒野 修一 氏(のおがた支部)

外的環境が厳しさを増す中で、四代目社長の挑戦についての報告です。

生い立ち

 「創業は1948年です」と語り始めたのは、(有)明治屋食料品店の四代目社長、桒野修一さんです。筑豊地方にある直方市は、かつて日本の近代産業を支えた炭鉱の町として栄えました。シュガーロードの恩恵を受けお菓子作りが盛んです。

 祖父の清明さんは、戦後まもなく直方市の商店主らと共同出資しスーパーを経営していましたが、やがて独立して贈答品や乾物、酒類を中心とした小売業を始めました。屋号は、明治町商店街と古町商店街の交差するところに立地したことに由来します。商売は繁盛を極め、やがて小麦粉や砂糖などを中心にした卸売業にシフトしていきました。現在では9割以上が卸売です。

 桒野さんは直方で生まれます。大学を卒業して福祉の仕事に進みました。しかし4年半ほどで退職し、以前から憧れていた海外へ一人旅立ちました。

 経営は桒野さんの父が継ぎましたが、体調を崩しその後桒野さんの母が支えました。両親から桒野さんの元に「席を空けているから」と『帰って来いコール』が来ました。桒野さんは悩みましたが、やはり長男として守らなければならないものがあると実家に戻るのでした。28歳の時です。

 桒野さんは会社が実際にどのような仕事をしていたかは知りませんでした。現場で配達や営業をしてお客様に接していきました。地元での信頼が構築されていることを実感しました。桒野さんもお客様の声に親身になって対応していきました。

 しかし商店街は衰退し若者は都会へ流出している現状を目の当たりにするのでした。
 桒野さんは、卸売や小売では生き残れない、何か新しい方策を考えなければならないと模索していました。

同友会での学び

 桒野さんは2018年に四代目社長に就任します。経営の勉強の必要性を感じ同友会に入会します。

 入会してすぐに『あすなろ塾』『経営指針作成セミナー』を受講します。『長く会社を続けるとは、人のため、地域のために仕事する』ということは先代たちの背中から感じ取っていました。ただし社是やモットーなど成文化したものはありませんでした。

 桒野さんは次のような経営理念を策定しました。

 『新たな価値を創造して、次世代に種をまく』

 若いスタッフも迎え、会社の進むべき方向を明確に示しました。
 「若い人たちには夢があります。その芽を摘むことなく、またベテラン社員さんには押し付けることなく、バランスをとって会社の運営に気を遣いました」。
 理念の浸透のため、常日頃から会話を大切にしていると言います。

新事業への挑戦

 桒野さんは生き残り戦略として自社商品づくりに挑戦します。「初めは、米粉を使ってカステラづくりをしてみました。それまで経験もなく、なかなかうまくいきませんでした。」そんな中で、「うちは粉屋だ! 様々な商材を組み合わせてミックス粉をつくってみよう」と思い立ちました。自社の強みを改めて認識し、米粉を使ったミックス粉の商品開発へと舵を切りました。

 直方市はふくのこ米の生産日本一を誇り、行政や生産者の方々もふくのこ生産に力を入れています。このお米は、難消化のでんぷん・レジスタントスターチを含み『高アミロース米』と呼ばれ、血糖値の上昇を抑え便秘解消に効果があると言われています。取引先の特約店で『ふくのこ』をつくっている農家があり、提携して米粉を使った新しい製品を製造しました。地元素材を使うことで地域の活性化の一環にもなると考えました。

 そして最初に商品としてできたものがパフ化した米粉と大豆粉を合わせた『パンケーキミックス粉』です。アレルギー体質の子どもたちにも安心して食べてもらえます。
 またドライフルーツや米粉を使用した『ライスエナジーバー』をつくりました。
 いずれも、地域の食材を活かし、乱れがちな現代の食生活のバランスを補い、小腹のすいたときや朝食に適した食品です。

ライスエナジーバー ナッツアンドフルーツ

 まだ市場に流通していないふくのこ発芽玄米をパフ化しドライ加工した果物の果実を取り入れたシリアル商品も開発しました。その商品には地元生産者の規格外の果物をドライ加工した商品を使用しており、地域が循環していく一助にもなればという願いも込めています。

 新事業にあたり資金調達のためにも事業再構築補助金、持続化補助金、IT導入化補助金、福岡県米粉事業開発にも応募し採択することができました。

 「それも同友会で学んだ勉強が大いに役立ちました」と桒野さんは語ります。

販売戦略

 この新製品を販売するため、別会社・株式会社明光商事を創設し『upsuns(アプサンズ)』というブランドを立ち上げました。upcycle(不要なものを再利用する)に、seed (種)、soil(土)、sun(太陽)の3つのSを合わせた造語です。ふるさとを元気にするという思いが込められています。

 店舗を区画分けして製造スペースと販売スペースを確保しました。壁には小さな窓があり製造の様子を見ることができます。

 またブランドや地元の資源の認知度向上を図るためにクラウドファンディング『Makuake』を利用し、先行予約で販売を確保しました。
 その際にも同友会のメンバーに数多くの支援をもらいました。
 また度々マスコミにも取り上げられ評判は上々です。

 「こうした新製品開発の取り組みは若いスタッフのモチベーションがすごく上がります」と桒野さんは手応えを感じています。
 実店舗においても仕入れに関してはスタッフの意見も積極的に取り入れ『フェアトレード』の商品も新たに仕入れております。
 フェアトレードとは、発展途上国との貿易において公正な取引をすることにより、途上国の人々の生活を守る仕組みを言います。

ペルソナは『直子さん』

 特筆すべきはブランド戦略です。「『広告はたった一人に向けたメッセージ』とも言われます。ピンポイントのターゲットに向けた施策が、結果的に特定した層にフィットした確度の高い施策に仕上がっていきます」。そこで桒野さんはターゲットとするペルソナ(ここでは、具体的な消費者のイメージを意味する)を次のように設定しました。

  • 名前:直子さん(直方に由来する)
  • 性別:女性
  • 年齢:30~40歳
  • お子さん:2~3人
  • 田舎(直方)に生まれ、幼少期は自然に囲まれて育った。農作業の手伝いもしたことがある。仕事で都会に出る。良縁に恵まれ結婚し2人の子どもに恵まれ幸せな生活を送る。しかし、やがて仕事や都会の生活の煩雑さに心身のバランスを崩してしまう。ヨガなどを試みて何とか立ち直ろうとする。心や身体をいたわること、食の大切さに気付く。それをきっかけに子どもを自然の中で育てたいという思いから家族ともども直方に戻ってきた…….。

現在の課題と今後の展望

 昨今の原材料や燃料の高騰が経営に大きな影響を受けています。メーカーと交渉し安全で適正な在庫を確保し、双方にメリットのある条件を模索しています。苦渋の選択で価格に転嫁しなければならないこともありますが、材料や商品の良さ、ベネフィット(地元の素材を使っている、健康にいいなど)を丁寧に説明しています。

 ネット通販に関してのお問い合わせもあり、ECサイト構築を整えています。(https://upsuns.jp/)

社長の仕事

 取材の最後に、桒野さんが考える自立型企業についてお伺いしました。

 「社員が目的に向かって仕事をする会社、わが社で言えば価値を創造して次世代に向けた仕事に取り組むことです。その環境をつくるのが社長としての私の仕事だと思います。また次世代に向けた組織構築も行っていきます」。
 そしてこう付け加えてくれました。「65歳になったら、ちょうど創立100年ですが、その時には次の世代に譲って、私はまた海外に出てみたいと考えています」。
 笑顔で締めていただきました。

 取材協力ありがとうございます。

有限会社明治屋食料品店

創業 1948年12月
住所 直方市古町6-4
電話0949-22-3651
従業員数10名(うちパート6名)
URLhttps://upsuns.jp/
事業概要 業務用食料品卸売販売、ギフト商品一般食料品販売

取  材 広報部
文章担当 菅原 弘(東支部)
写  真 富谷正弘(玄海支部)

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