2023年度 事業承継塾 第4講 『M&A自社を譲渡』

福友和支部 
株式会社 福岡リロケーション
代表取締役 中野正志

 事業承継塾第4講はかすや支部に所属する株式会社シティライン会長の田浦通氏による「M&A 自社を譲渡」というテーマで報告をしていただきました。

 同社は田浦氏が昭和58年に創業されて、令和1年に全株式を東証1部上場の株式会社ハマキュウレックスに譲渡され子会社となっています。

 田浦氏は福岡県中小企業家同友会に38年前に入会されて旧文化厚生委員長、福岡地区会長、代表理事を務められ経営者フォーラムや他県同友会でも報告者として企業づくりの体験を語られて、参加の皆さんに学びや気づきの機会を与えられてきました。

 その田浦氏が36年間育て上げられた会社を大手会社に売り渡されるということに多くの会員は驚きとともに「なぜ」という疑問もありました。

 しかし、今回の報告を受けて田浦氏が思慮深く慎重に会社の存続と社員さんたちの暮らしと生活を守るために英断されたことを知ることができました。

 M&Aに至るまでには田浦氏の事業継承に関しての次のような現状認識がありました。

①ご子息達にバトンタッチするにはすでにそれぞれが自分の道を歩き承継するには難しい。②社内の社員に承継してもらうには株価が高く株式買い取りが難しい。

そのような中、盛んにM&AのDMが送られてきます。

 また、二人の知人経営者の急逝があったり、ご自分の健康に不安があったりするほか海外旅行を通して田浦氏の人生観、仕事への価値観が変わる機会がありました。会社の将来を思いM&Aを考えてみようと動き出されます。

 M&Aを希望する会社の中から現役員による経営、社名の存続、会社方針、人事制度、社員の待遇維持を了解する会社を選び、田浦氏自身は経営から退くことにして全株を譲渡されることになりました。

 子会社となり親会社からの目標必達の厳しさはあるが、経営陣となった田浦氏の元部下達が意欲的に新会社経営にあたっている姿に頼もしさを感じると田浦氏は感想を言われています。

 今回の報告をうけて株価が高くなったらM&Aも事業承継の選択肢として考えるべきで会社存続、社員の生活維持のためにも有効な方法であると気づかされた人も多かったようです。

 M&Aが事業の衰退から選ぶ事業承継ではなく、会社の存続、そこで働く社員さんたちの生活・暮らしを守るという意味で有効な方法であることを確認できました。ただそのためには買い受けた会社が一方的に経営支配権を握るのでなく、従来の会社の方針や社員を大切にするといった姿勢をもった形でのM&Aがなされるようにすることが鍵になるように感じました。このような買い取り会社の従来の方針や社員さんを大切にする日本型M&Aは後継者のいない中小企業においてはますます増えてくるのではないかと思いました。

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